遺言が必要とされる理由
遺言を行わずに相続が発生した場合、相続財産は各相続人が法律に定められている割合(「法定相続分」といいます)で取得します。
この法定相続分と異なる割合で相続財産を取得する場合、相続人全員による遺産分割協議が必要となります。
次のような場合には、遺言の必要性は高いと思われます。
- 子供がいない夫婦
- 再婚して先妻(夫)の子供がいる
- 自分が亡くなった後の妻(夫)の生活が心配
- 相続人以外の人(子供の妻、孫、内縁の妻、生前にお世話になった人など)に財産を残したい
- 相続人の中に病気や障がい等により物事の判断が困難な人がいる
- 相続人の中に行方不明者がいる
- 相続人同士が不仲や疎遠の状態
- 相続人が1人もいない
このような場合、遺言をあらかじめ行うことで、無用な混乱を避け、相続手続を迅速に行うことができます。
遺言には主なものとして、公正証書遺言と自筆証書遺言があります。両者の特徴とそれぞれの良い点・悪い点は次のとおりです。
公正証書遺言について
公正証書遺言は、遺言者が法律の専門家である公証人に遺言の趣旨を伝え、これを公証人が公正証書として作成する遺言です。
公正証書遺言の良い点・悪い点は次のとおりです。
良い点
- 内容が明確で証拠力が高いため、安全で後日に紛争の生じるおそれが少ない
- 遺言書を公証役場で保管するので、偽造や紛失、遺言書が見つからないというおそれがない
- 高齢や病気等のために、字が書けない・耳が聞こえない・口がきけない人でも作成できる
- 高齢や病気等のために公証役場に行くことができない場合、公証人に自宅や病院、介護施設等に出張してもらい作成することができる
- 全国の公証役場に、被相続人が過去に公正証書遺言を作成したか否かを照会することができる(平成元年以降に作成されたものに限る)
- 家庭裁判所の検認が不要
悪い点
- 作成手続に時間がかかる
- 遺言の存在と内容を秘密にしておくことができない
- 公証人への費用がかかる
- 証人2名の立会いが必要
自筆証書遺言について
自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文(財産目録を除く)、日付、氏名を自分で書き、自分で印を押して作成する遺言です。
自筆証書遺言の良い点・悪い点は次のとおりです。
良い点
- いつでもどこでも自分で作成できる
- 遺言の存在と内容を秘密にすることができる
- 費用がかからない
- 証人が不要
悪い点
- 自分で遺言書を保管しなければならないため、偽造や紛失、遺言書が見つからないというおそれがある
- 方式に不備があると無効になったり、内容が不完全な場合に紛争が起こる可能性がある
- 自分の手で書く必要があるので、字が書けない人は作成できない。パソコンで作成した遺言は無効となる
- 家庭裁判所の検認が必要となるため、相続人の手間がかかる
遺言書保管制度について
自筆証書遺言については、法務局が遺言書を保管してくれる制度「遺言書保管制度」があります。この制度の良い点・悪い点については次のとおりです。
良い点
- 遺言書を法務局で保管するので、偽造や紛失、遺言書が見つからないというおそれがない
- 公正証書遺言より費用が安い
- 家庭裁判所の検認が不要
悪い点
- 法務局は遺言の内容に関する相談に応じることができないため、内容については遺言者の自己責任となる
- 字が書けない人は制度を利用できない
- 通常の自筆証書遺言ではなく、法令で定める様式に従って遺言を作成しなければならない
- 相続が発生した場合、相続人等は法務局で遺言書情報証明書(遺言書の画像を表示したもの)を取得する必要があり、相続人等の手間がかかる
検認について
自筆証書遺言は、家庭裁判所において検認手続を受けなければ相続手続に使用できません。(遺言書保管制度を利用した場合を除く)
検認とは、相続人に対して遺言の存在を知らせ、遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造を防止する手続です。ただし、遺言の有効・無効を判断する手続ではないので、注意が必要です。
遺言執行者について
遺言の内容によっては、手続を行うことにより初めて遺言の内容が実現できるものがあります。この手続を行うことを「遺言の執行」といいます。
遺言執行者とは、遺言の執行を行うために、遺言により指定された者をいいます。遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、遺言の執行に必要な一切の行為を行う権限を持っています。
遺言執行者がある場合には、相続人は遺言の執行を妨げる行為はできません。相続人による妨害行為は無効となります。
遺言執行者の指定は義務ではありません。しかし、遺言執行者が指定されていない場合、相続人全員により遺言を執行しなければならない手続があります。
遺言執行者には相続人もなることができます。しかし、遺言の執行には法律の知識が必要となる場合があります。
相続人には負担が大きいと思われる場合は、司法書士や弁護士等の専門家に依頼して、遺言に遺言執行者として指定します。